演劇実験室∴紅王国 第六召喚式『御蚕様』 用語集


【オシラサマ】
 人間の娘と馬の異類婚譚を謂われとする、男女、もしくは馬と娘二体で一対をなす神で、家内安全や養蚕の神とされる。御神体は男女や馬を彫刻した棒状の木に、オセンダクと呼ばれる布を貫頭形に被せたものが多い。柳田国男の『遠野物語』で有名だが、広く東北地方に分布し、祀り手は主婦やイタコなどの女性。この神を祀る家は冨貴自在と言われるが、祭祀を怠ると氏子に祟るとも言われる。
 作品中に現れる「オシラサマ」は、作者である紅王が、複数の伝承や資料から創作したもので、特定のモデルは存在しない。

【オシラホロギ】
 一般的には「オシラ遊ばせ」と呼ばれ、命日や縁日と呼ばれる日に、祭祀者である女性が、神棚や祠からオシラサマの像を出し、祭文を唱えながら上下左右に振る。祭文は主として、オシラサマの謂われを語る。
 映画『遠野物語』では祭文に加えて不動明王の真言が唱えられていたが、作中で唱えられるのは「ひふみ」あるいは「布留部」と呼ばれる古神道の祝詞。

【オユキサマ】
 本作品のみの完全な造語。
 オシラサマに仕える巫女で、これを祀る氷室家の当主の妻、或いは娘が務める。未婚、既婚を問わず白無垢に前帯を結び、振り袖を羽織っている。その装束の謂われは、神の嫁であるオユキサマは……云々、というのが作者の弁。だが、単に紅王の趣味である事は誰でも知っている。

【雪の声】
 代々、氷室家でオユキサマを務めた女性達は、降雪の予感をある種の音として知覚する、特別の才能を有していたとされ、氷室家でオユキサマを務める為の絶対条件。
 当然、これも本作のみの創作だが、いわゆる霊感と呼ばれる能力は、側頭葉や松下体が、地磁気や気圧変化などを知覚する事と関係が深いというのが最近の研究成果。

【暗黒の木曜日】
 一九二九(昭和四)年、十月二十四日、ニューヨークで起こった株価大暴落の日。米国の関税政策によって世界恐慌に発展。対米輸出に依存していた日本経済は大打撃を受け、生糸の輸出額も激減した。その後の凶作や不況に対する政府の無策が、軍部の台頭を許すきっかけとなる……って、何だか今と似てたりして……

【スペイン風邪】
 第一次大戦当時、スペインから始まった感染力と死亡率の高いインフルエンザ。日本では一九一八(大正七)年から翌年にかけて大流行し、十五万人もの死者を出した。ライノ・ウイルスによる一般的な風邪と流行性感冒は全く別の病気だが、インフルエンザ・ウイルスが発見されたのは、この物語の翌年にあたる一九三三(昭和八)年。

【奉安殿】
 帝國憲法下、教育勅語等を収め、全国津々浦々の小学校に設置された祠。その前を通る時は、最敬礼しなければならなかった……これも国旗国歌法と似てたりして……

【隠れ切支丹】
 キリスト教の信仰が禁止された幕藩体制下で、秘密裏に信仰されたキリスト教。土着宗教などと混合して、本来のキリスト教とはだいぶ異なるが、現代でも、僅かながら、この信仰を守る人々は存在する。ちなみにデウス様は、父なる神、サンタマルヤは聖母マリアの事。
 紅王国では、物語を転がす要素として、旗揚げ作品『化蝶譚』から度々用いられる、紅王のお気に入り。

【レビ記】
 旧約聖書のうち、律法と呼ばれる部分の一書。信仰に関わる規定から、民法や刑法に相当する事、病気や食事、性生活など、様々な決まり事が具体的に書かれている。

【第一回東京優駿競争会】
 一九三二(昭和七)年、四月二十四日、目黒競馬場で開催された、日本初のダービー。二四〇〇メートルで、優勝馬の名はワカタカ……なんだかなぁ……
 

作成/在倉恭子

 

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